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〈02〉
上ばかり見て走っていたせいで、つまずいて転んでしまった。コンクリートの地面に転んだ割にはあまり痛くないなと思って顔を上げると、見知らぬ部屋のベッドの上に居た。
「……」
驚きで声も出ない。
窓があり、簡単な机と椅子があり、姿見があり、クローゼットがあるだけの部屋。机には本が数冊と花瓶に生けた花が置かれている。床は板張りで、窓の反対側にドアがある。一見誰かが使ってそうだが、なんとなく人の気配を感じない部屋だった。
窓から外の様子を眺めて見るとこの部屋は二階にあるらしく、道を挟んだ向こうの家の二階の様子がよく見えた。
違和感。普段は決して感じない類の物を感じた。その正体にすぐ気付く。
「……白い」
外の景色、家、屋根、道、建造物のありとあらゆる物が真っ白だった。
「気が狂いそうになる」
あるいは狂わせるために白いのか。
「よし」
気持ちが落ち着いてきた。この得体の知れない部屋からとりあえず出て、交番でも探そう。できるだけ人に見つからないように。
「というかここはどこだろう」
ドアはどういう訳か中途半端に開かれているので、閉じ込められているということはなさそうだ。恐る恐るベッドから降りる。
「あれ、なんだこの服?」
さっきまで着ていた物とは明らかに違う、真っ白い服を私は着ていた。しかも裸足だ。姿見で服装を確認すると、なんだか死装束のようで気味が悪い。
「服のサイズは合っているんだけど、この余分な袖はそのままか」
右手を軽く振ると、袖の余った部分がひらひらと揺れた。私の右腕は、肘の少し上から先がない。だから腕の足りない分だけ袖が余ってしまいとても邪魔だ。
「いや、この状況で私の右腕なんてどうでもいい」
止まってしまいそうな思考を再開。気を取り直して、状況整理。
今の状況とは?
「知らない街、よくわからない部屋、見たことのない服」
そこから導き出される最も絶望的な状況とは?
「最悪、食べられるかもしれない」
整理完了。
あたりに靴のような物が見当たらなかったため、私は裸足のまま部屋を出た。
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