片腕の行方

3/9
前へ
/120ページ
次へ
  〈02〉  上ばかり見て走っていたせいで、つまずいて転んでしまった。コンクリートの地面に転んだ割にはあまり痛くないなと思って顔を上げると、見知らぬ部屋のベッドの上に居た。 「……」  驚きで声も出ない。  窓があり、簡単な机と椅子があり、姿見があり、クローゼットがあるだけの部屋。机には本が数冊と花瓶に生けた花が置かれている。床は板張りで、窓の反対側にドアがある。一見誰かが使ってそうだが、なんとなく人の気配を感じない部屋だった。  窓から外の様子を眺めて見るとこの部屋は二階にあるらしく、道を挟んだ向こうの家の二階の様子がよく見えた。  違和感。普段は決して感じない類の物を感じた。その正体にすぐ気付く。 「……白い」  外の景色、家、屋根、道、建造物のありとあらゆる物が真っ白だった。 「気が狂いそうになる」  あるいは狂わせるために白いのか。 「よし」  気持ちが落ち着いてきた。この得体の知れない部屋からとりあえず出て、交番でも探そう。できるだけ人に見つからないように。 「というかここはどこだろう」  ドアはどういう訳か中途半端に開かれているので、閉じ込められているということはなさそうだ。恐る恐るベッドから降りる。 「あれ、なんだこの服?」  さっきまで着ていた物とは明らかに違う、真っ白い服を私は着ていた。しかも裸足だ。姿見で服装を確認すると、なんだか死装束のようで気味が悪い。 「服のサイズは合っているんだけど、この余分な袖はそのままか」  右手を軽く振ると、袖の余った部分がひらひらと揺れた。私の右腕は、肘の少し上から先がない。だから腕の足りない分だけ袖が余ってしまいとても邪魔だ。 「いや、この状況で私の右腕なんてどうでもいい」  止まってしまいそうな思考を再開。気を取り直して、状況整理。  今の状況とは? 「知らない街、よくわからない部屋、見たことのない服」  そこから導き出される最も絶望的な状況とは? 「最悪、食べられるかもしれない」  整理完了。  あたりに靴のような物が見当たらなかったため、私は裸足のまま部屋を出た。  
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加