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〈03〉
予想通りあの部屋は二階にあったようで、廊下の突当りにあった螺旋階段を下ると二階とほぼ同じ作りの一階があった。あまり大きくない家だが部屋は多めだ。集団生活でもしているのだろうか。
廊下をまっすぐ進んだところにある、あの重そうなドアが玄関だろうか。足音を立てないように歩き、玄関を目指す。家の中から人の気配はしない。そもそも、外からも人の気配がない。もしかして、この街には誰もいないのかも。
一瞬の油断。そのわずかな隙のせいで、私は玄関が開くのに気付けなかった。
「お前、何をしている」
玄関の方から聞こえた、少し低い、眠くなるような男性の声。
「わ、え、あ、あの、えっと」
さすがに焦る私。二の句が継げない。これはもしかしたら絶体絶命なのではないか? あの部屋を出るまで約十五分! 見つかるまで約三十秒!
しかし、そんな私を差し置いて、彼は私以上に驚いた表情を見せた。
「お、お前、戻っていたのか?」
目を丸くし、上ずった声。私を誰かと間違えているのか? 人の焦った表情ほど、気を落ち着かせる物はない。少しずつ冷静になる私。
「来年の12月に帰るんじゃなかったのか? なのにこんなに早くに」
彼は興奮気味にそう言い、私をじっと見た。
男性にしては長い、色素の薄い髪、背は高めだがやや細めの体格のため大柄という印象を受けない。猫のような眼で私のことをじっと見ている。やがて彼は不自然に余った右袖に気付き、改めて私の顔を見た。
「あの、誰かと間違えていませんか?」
「……お前、名前は?」
ようやく彼は人違いと気付いたようだ。気付いた後も、彼は不思議そうな目で私を見ている。
私は自分の名を名乗る。
「……サキ」
名前を聞いた後も、彼は不思議そうな顔をしていた。
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