片腕の行方

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  〈04〉  イリアスと名乗った彼は私をリビングのような部屋に案内し、コーヒーを入れてくれた。なぜか不機嫌そうに、彼は話し始めた。 「まず一つ、質問がある。廊下で何をしていた?」 「えっと、この家から出ようとしていました」 「なぜあんなにこそこそとしていた?」 「……気付いたら見知らぬ部屋に居て、状況から考えるに、誘拐されたと思ったからです」 「……お前、拘束でもされていたのか?」 「いいえ、気付いたらベッドの上でした」 「じゃあ、そのままおとなしく部屋にいろよ。お前は変な奴だな」  正論だった。何も急いで部屋を出ていく必要はなかったのだ。私は私が思っていたより冷静ではなかったらしい。  私からも彼にいくつか質問してみた。ここはどこか。あなたは誰か。そして、なぜ私がここに居るのか。 「ここはお前がいた世界とは別の世界だ。この世界、というかこの街については明日改めて話そう。時々お前のようにこの世界に来てしまう者がいる。そういう奴らをここでは来訪者と呼んでいる。  俺もその来訪者の一人だ。七年前にこの街に来て、今は絵描きをしている。お前がここにいる理由は俺には分からない。だが来訪者に共通していえることは、全員何かしら強いトラウマを持っているということだ」 「私の中のトラウマのせいで、私はここに来たの?」 「違う。トラウマの内容は関係ない。強いトラウマを持っている。それだけで俺やお前はこの世界に連れてこられた」  なるほど、ざっくりとはわかった。あの何か青いひらひらした物を追いかけたらこの街に来ていたというわけか。  よし、思っていたよりも状況は絶望的ではないらしい。世界が変わったというだけで私自身が危ない目に会うわけではなさそうだ。安心してしまい、体の力が一気に抜けていくのを感じる。誰だ、食べられるなんて言った奴は。  でも、私のトラウマってなんだろう。  
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