片腕の行方

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  「お前、やけに落ち着いているんだな」 「まあ、さっき二階の窓から見た外の風景を考えれば、ここは私がいた街とは違うことは理解できた。それに、私はここのことを何も知らないから、ここに住んでいるあなたのいうことを信じるしかない。この街のことは明日教えてくれるんでしょ?」 「ああ、明日教える。……お前はやっぱり変な奴だな」  一日に二度も同じ人から変な奴と言われたのは初めてだ。私はそんなに変なことを言ったのかな。と言うか、なぜ明日なのだろう。今ではダメなのか? 「話は変わるが、お前、この世界に来てからどのくらい経った?」  この世界に来てから? 私は腕時計を見ようとして、自分の服装が変わっていることを思い出した。 「ごめん。時計持ってないからわからないや」 「慣習で、来訪者はそいつが現れた家で面倒を見ることになっている。つまり、お前はしばらくこの家で過ごすことになる」 「わかった。それと時間に何の関係が?」 「俺の予想だと、お前がこの世界に来てからそろそろ一時間だ。その前に伝えておかなきゃいけないことは言っておかなきゃなと思ってな」  彼の言いたいことがよくわからない。一時間経つと何か不都合なことでもあるのだろうか。聞きたいことは多いが、今は彼の話を聞いた方が良さそうだ。 「さっき俺は、お前は来訪者だと言ったが、正確にはまだ違う。トラウマを持たずにこの世界に来てしまった者、つまり何かの手違いでこの世界に来てしまった者は一時間以内にもとの世界に返されるんだ。  だがお前はどうやら間違ってこの世界に来てしまった者ではないようだ。そういう、一般的な来訪者はこの世界に来てから一時間後に、存在その物を書き換えられるんだ。今はまだお前はもといた世界の住人だが、これからこの世界の住人になる。  その、存在を書き換えられる際、今まで感じたことのない苦痛を感じるんだ」 「ちょっと待って、苦痛ってなに? 私痛いのやだよ?」 「来訪者は必ず通る道だ。俺だって通った。そしてその苦痛から一日は寝込むことになる。だからこの世界についての詳しい話は明日からだ」  色々な説明を明日に回した理由はわかったけれど一日寝込むほどの苦痛なんて私はいやだ。  
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