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「先輩、ご希望のブラックコーヒーです」
そこは所謂一般的な研究室であるのだが、食器や漫画、縫いぐるみなどが点在する生活感のある一室であった。
「ありがとう」
温かいコーヒーを口から体へ流し込む。それは、冷えきった九条の心をいとも簡単に溶かしてみせた。
「先輩、いい加減休んだらどうです? もう3日も眠っていないでしょう」
「そんな事を言って。君こそ休みが欲しいだけなのだろう?」
御幸は自分の後頭部を軽く叩く。
「あちゃー、バレちゃいましたか。実は明日、即売会があるんですよね......でも、冗談が言えるなら先輩はまだ大丈夫そうですね」
「当分遊んでいる暇はないぞ。今すぐにでもクローンのデータベースを洗い直して再インプットしないと。それに媒体にも問題があるのかも知れん。そちらの改良も加えなければいけないな」
御幸は九条の背後に周り、肩を揉みほぐす。
「どうしてそこまで完成を急ぐんです?依頼者だってもう一月くらい待ってくれるでしょう」
九条の表情が引き締まる。
「もちろん唯の為だ。彼女は私の親友だからな。唯の為ならば命を削ってでも成し遂げてみせるさ」
「いつもそれですよね。でも、たまには休まないと体壊しますよ。そうなってクローンの完成が遅れたら、元も子もないでしょう?」
「確かに、そうだな。では、二時間程眠るとしよう。御幸君、起こしてくれるか?」
御幸は九条の両肩をポンと叩き、微笑んだ。
「勿論です。その間に僕が"後片付け"しておきますから」
「君には迷惑ばかり掛けて本当にすまない」
「いいんですよ。僕が好きでやってるんですから」
御幸の言葉には何か含みがあるように感じられたが、今の九条にそれを言及するだけの気力はなかった。
九条は睡魔に身を委ね、硬い机に突っ伏そうとしたのだが、同時にドアを開く音がした。
「おはよう、美咲」
九条の瞳には、黒いTシャツを着た、親友と全く同じ容姿の女が映った。眠気が一瞬で吹き飛ぶ。
御幸もまた、目を見開いてそれを凝視した。
「先輩、これって......」
二人は目を見合わせる。
「あぁ、成功だ」
女は首を傾げる。
「成功って何の事?」
「いいや、何でもないさ。おはよう、ユイ。君をずっと待っていたんだ」
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