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唯は表情を少し緩めて立ち上がり、研究室の中を歩き回り始めた。
「ねぇ、美咲。私の夢が画家って事は覚えてるよね?」
「ああ、母親のせいでその夢を諦めたのだろう?」
唯の顔に影が混じる。
「そう。でも何で画家なのか。どうしてあの人、私の母親がそれを反対したのかは言ってなかったよね」
「そうだったな。では何故なんだ?」
「私にも、お父さんがいたの」
「まぁそうだろうな。確か離婚したんだったか」
「そしてお父さんは画家だった。何歳の時だったか、お父さんの絵の展覧会が開かれて、それを見に行ったの。そこで私は見た。お父さんの絵を見て笑顔になる人、驚く人、涙を流す人。その光景を見て、私は将来お父さんのような画家になるって決めた。けれど、知っての通りあの人はそれを良しとしなかった。『そんな安定しない競争社会より、将来安泰な医者になりなさい』って私に医者への道を強要した。最初は私の将来の為を思って言ってくれてるんだと思った。けどね、ちゃんと話をしてみたら『私は医者になれなかったけど、あなたにならできる』そう言ったの、あの人は。端からすればそれも私の為とも言えるかも知れない。でも"あなたにならできる"ってつまり"私の二度目になりなさい"って事じゃない?それからあの人の点数第一主義教育が始まったの。少しでも点数が悪ければ目の敵。まるで私が、あの人の夢を叶える道具であるかのように、ね」
「夢を押し付けられた、か。成る程な、そういう事だったのか。辛いのによく話してくれたな」
美咲は、顔を真っ赤に染めて言葉を吐く唯の肩を擦り、その場で座らせた。
「いいえ、私こそ気が動転しちゃって。ごめんね」
「私と唯は親友だろう? これから辛い事があっても、二人で乗り越えればいい」
「そうだ、ね」
唯は美咲に体を寄り掛からせて、寝息をたて始めた。
「やはり眠っていなかったんだな。相変わらず分かりやすいな、唯は」
美咲は唯を抱き寄せ、互いの温もりを確かめるように寄り添って眠りに落ちた。
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