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夏休み明けの始業式。
アイツらと顔を会わせるのはさすがにキツかったけど、そんなことで休む訳にもいかなくて。
休みの間になんとかケリをつけたはずの心がザワザワするのを押さえつけて教室に入った。
予想に反して二人ともまだ来ていなかったことにホッとしながら、いつも通りを装って女子にちょっかいかけたり、男同士で下らない会話に花を咲かせたりして。
大丈夫。いつも通りできてる。
そんな風に思い浮かべながら、言い聞かせなければ取り繕えない情けなさに、唇の端が歪むのを感じて慌てて俯く。
大丈夫。大丈夫。普通にしよう。あの時は結局、最悪の事態にならずにすんだ。だから、大丈夫。
深呼吸を一回。
顔を上げて、どうでもいい話にバカ笑いして。
なのに、心が。ドキドキザワザワするのが苦しくて、トイレ行ってくるなんて大声で宣言して、逃げるみたいに教室を出たのに。
「──っぁ」
廊下の先に見つけたのは、並んで歩くアイツらの姿で。
ギシギシ言う胸の辺りをぎゅっと掴んだら、アイツらがこっちに気づく前に逆側の廊下にダッシュする。
大丈夫。
──なんかじゃない。
笑って話してる二人を見るだけで、まだこんなにも荒れ狂う。
あんなにも無惨に破れた恋が、未だにこんな影響力で揺さぶってくるのが癪なのに。
アイツが笑っていることにこんなにもホッとするなんて。
あぁもうホントに。
諦めたいのに諦めきれないなんて、カッコ悪すぎる。
あの日、泣きながら思い知らされた恋の終わりを。
受け入れたつもりだったのに、まだこんなにも惑うのが情けない。
溜め息を1つ。
吐いたところでチャイムが鳴り響いて。
力の入らない足をどうにか動かして、よろよろと教室に戻る。
ドアを開けるのが酷く億劫で、ドアの前で硬直してしまう。
いつも通り。いつも通り。いつも通り。
言い聞かせて、言い聞かせて。それでも震える手と呼吸に、自分の弱さを突き付けられて泣きそうになる。
何やってんだよオレは。
出てもいない涙を乱暴に拭ってドアを開けたら、こっちを見た早川とマトモに目が合って。
慌てて逸らされた、怯えた目。
死ぬかと思った。
辛くて苦しくて、吐きそうだった。
強い視線を感じてノロノロ顔を動かしたら、いつにない厳しい目でオレを睨み付ける旭がいて。
睨み返す気力もなくて、項垂れたまま席に着いた。
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