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始業式が終わって、授業があった訳でもないのにえらく疲れた気分で迎えた放課後。
みんなで遊びに繰り出していったクラスメイトを、今日ばかりは疲労を理由に見送った。
あんなにも早川を貶していたのにこのザマかよと、自分を呪うしかない。
ぐったりと溜め息を吐いて、何も入っていないはずなのに妙に重たい鞄を持ち上げる。
ふらりと教室を出て、下駄箱へ向かう途中。
「はやかわ……」
階段の踊り場に立っていた早川を見つけて、思わず零れたその声に。
早川が顔を上げて一瞬目を左右に走らせた後で、右足を一歩引いたのに気づく。
「待て」
「──っ」
思わず腕を掴みに走った反射神経は、たぶん、今までで一番の瞬発力だったと思う。
「待って、頼むから」
「……」
哀願するみたいに零れた声は、ひどく掠れて弱々しくて。自分でも情けなさに泣き出したくなるけれど。
早川は、困惑した顔のままオレを見つめて。
「……なに?」
きょとんと首を傾げてオレの言葉を待っていて。
喉が鳴るのを隠すことは、もう諦めた。
「……ごめん」
「何が?」
「いろいろ」
「……」
「もうしない。……ずっと……お前のこと、睨んでるつもりも、全然なかった。……こないだの、祭りのとき、も……腕、掴んだりして、悪かった」
「……」
呆気に取られたみたいな顔してオレを見上げる、純粋な瞳を。
まっすぐ見つめ返すこともできずに、掴んだままだった腕をそっと手放す。
「わるかった」
早川のまっすぐな視線が痛くて、項垂れたままに去ろうとしたら。
「かしわぎ」
「っ」
躊躇うような小さな声に、呼び止められて。
振り向くことも出来ないままに、立ち尽くしていたら。
「……オレ、集団行動苦手だし、お前、そういうオレのこと、嫌ってんだと思ってた」
「ちがっ」
「でも、違うって分かって、ちょっとホッとしてる」
「……」
「お前の気持ちに、応えてはやれないけど。……今、正直、ちょっとホッとしてる」
「……」
「お前、オレのこと、ホントに……殺したいくらいの勢いで、睨んでたから」
「んなことっ」
ねぇよ、と言い募ろうとしたのに。
勢いで顔を上げた先で。
早川が。
あの、無防備に優しい顔で笑ってるから。
何も言えなくなる。
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