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「ごめんとか、ありがとうとか……言った方が良いような気がするんだけど、なんかしっくりこないから、なんも言わない」
「……」
「卒業まで後半年だし……団体行動は苦手だけど今のクラスは、いいやつらばっかりだと思う。オレのこと、ちゃんと、クラスの一員て考えてくれてるし」
「当たり前だろ、そんなん」
「うん、だから。柏木とギクシャクしたくない」
「っ……」
「オレらがギクシャクして、クラスの空気、壊したくない」
だから、と紡いだ早川が、あの笑顔のままでオレを真っ直ぐに見つめるから。
泣き出しそうな自分を叱咤して、ゆっくり真っ直ぐ見つめ返す。
「──今まで通りだ」
「ぇ?」
「睨んだりしない。ちょっかいかけたりもしない。お前とは、今まで通りにする」
「…………うん」
あっさりと頷いて笑った早川に、ほんの少し淋しいと思ったのは胸に隠して。
「じゃあな」
「うん。──また明日」
早川が、頷いて続けた言葉に。
一瞬本当に、泣いたと思う。
今まで聞いたことのない、だけどたぶん一番聞きたかった言葉。
不意打ちの言葉に、けれど何でもないふりを装って手をひらひら振ったら。
早川の横をすり抜けて、バタバタと階段を駆け降りた。
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