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どうしてこんなにも気になるんだろうなんて、イライラしてた時だ。
「それはだって、隼人がさ」
学校帰りの駅に向かう道で、前から聞こえてきた嫌な名前に引きずられて顔を向けたら。
花が咲いたみたいに華やかで安心しきった笑顔と、教室のなかでは聞いたこともないような弾むような声で笑う早川がそこにいて。
聞いたこともない声と見たこともない笑顔に、最初は別人なんじゃないかと思ったのに。
──別人なら良かったのに。
「ンなこと言って、咲哉だって」
聞き耳たててた会話の中に聞こえてきたのは、間違いなく早川の名前で。
本当に早川なんだと思い知った瞬間に。
(────な、んでッ)
胸が。
もう今ここでオレは死ぬんじゃないかと思うほどに、ぎゅっと鷲掴みされたみたいに痛くなった。
喘ぐみたいに呼吸しながら、なのに目も耳も早川から逸らせなくて。
旭のその立ち位置を、今すぐにでも奪ってやりたい。
あんなやつじゃなくて。
オレに。
柔らかく笑って、その弾むような声で話を。
して欲しいと思った瞬間。
絶望に打ちのめされた。
恋だなんて。絶対に、認めたくなかった。
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