118人が本棚に入れています
本棚に追加
着付けの始まった教室の真ん中に、オレが狙ってた斉藤と早川と旭がいる。
ちらちら見てしまうのは、アイツらが気になるからじゃなくて、斉藤が気になるからだ。
何度こんな風に、無意味に自分を騙しただろう。
こっそり溜め息をつきながら、されるがままに浴衣に着替える途中。
「やーん。咲哉くん、浴衣ちょー可愛い」
一際黄色く高い声に、思わず目を向けてしまった先。
白い肌に良く映える濃い緑の浴衣に華奢な体を包んだ早川が、キョトンとした困り顔で立っていて。
喉が、鳴った。
衝動が、身体中を駆け巡っていた。
抗えない衝動に揺さぶられて、眩暈がするのに。
目が、離せなくて。
だから、見たくもなかったものを無理やり見せつけられた。
「これ、オレのだからあんま見ちゃダメ」
吐くかと思った。
旭が。早川を後ろから。
まるで壊れ物でも扱うみたいに優しく包むのを、見せつけられて。
冗談に紛らせたって、オレにはわかる。
──旭は、オレに言ってる。
嫉妬がオレを包んで、ドス黒い何かが腹の中からこみ上げてきて。
その上、早川がまた。
楽しそうに笑うから。
泣くかと思った。
悔しくて痛くて。
帯がキツいなんて理由じゃ、説明できないくらいに苦しくて。
思いきり良く頭を振って、無理やり顔を逸らしたのに。
意識が、いつまで経ってもアイツらを追い続けて。
心が悲鳴をあげてる。
(勘弁してくれ)
苦々しく胸の内で吐き捨てて、着付けてくれた女子にもごもごと礼を告げたら、そそくさと教室の隅に移動する。
アイツらを視界に入れたくなくて無意味にスマホを弄りながら、時間が過ぎ去るのを待つしかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!