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笠松は終の動きを見ながら終の体に異変が起きていることを知る。それは終の体に幾つもの切り傷が残っていることだ。
(この部屋にいたのは神庭君と、味鋺さんかな?だとすれば、二人はもうこの世にはいないのかな。)
その時、笠松は肩に葉っぱが落ちていることに気付く。終は笠松の頭上に葉の波を作り、息子を無数の葉で覆う。
「すべての葉が枯れ落ちる…」
「IFの世界で?そんな世界はもう存在しないよ。」
笠松は目の前の葉を握りつぶす。すると一枚の葉からすべての葉へ衝撃が移り、葉は全て地面に落ちた。笠松は頭に乗った葉を払い落すと父親を見る。
「僕が以前創ったことのある能力はもう僕には効かない。そういう体になったんだ。未来の希望によってね。そして、次で勝負は決まる。」
笠松は『11』と彫られた白い錠剤を指で潰した。粉状になった錠剤の破片たちは風に舞ってどこかへ消えていく。
「父さんの時代まで。もっと言えば僕の時代までなら僕は父さんに勝てないかもしれない。勝てないと思う。快は陸舘さんに勝てないだろうし、小鳥遊君は桜さんに勝てなかった。でもね。僕たちは未来を知ったんだ。未来に何があるのか。」
終は再び能力を創る。息子が創ったことのない能力を。息子が考えたことも無いような能力を。
「今は過去の犠牲の上に成り立っている。過去の栄光の果てに成り立っている。それなら未来は今を糧にして成り立つんだ。無意味な行動なんて無い。無意味な信念なんて無い。未来へ向く心さえあれば、今は素晴らしい。」
終は能力を創り終える。笠松はその能力がどのようなものであるか知る由が無い。だが、その能力が父親の切り札であることは何となしに知っている。
「父さん。最後に一つ聞いていい?」
「何だ。」
笠松は涙をこらえて笑顔を向けた。
「父さんは僕のことを愛していた?」
終は能力を発動させながら首を横に振った。笠松の心がキュッと絞まる。
「『愛していた』ではない。今も未来も『愛している』。私も、美空も創を愛している。恋は終わりを迎えるが、愛とは終わりが無いからこそ愛なんだ。」
終は笠松へ微笑んだ。その直後、終は突然胸を押さえてその場にうずくまる。目を見開き、呼吸を荒げる終は息子の方を見た。息子は涙を流してナイフを構えていた。
「ありがとう、父さん。」
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