遠藤快、高校篇 -誕生ー

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高校三年生は短い。部活動が次々と終わっていき、文化祭や体育祭を終了するといよいよ受験勉強の時期に入った。 遠藤と桜は入る大学の偏差値を見るとまるで問題が無く、通常通りに勉強を進めていけば志望大学は合格できる範囲だった。なぜ上を目指さないのか笠松に問われた時、桜は女手一つで育ててくれた母へ恩返しのつもりで学費を安く抑えたいからと答えた。既に無利子の奨学金の承認が終わり、入学費と学費の免除の申請も準備を始めていた。 完全に桜のストーカーの様に進路先を決めている遠藤にとっては、桜が志望大学を決めていることに安心していた。 八田は高校卒業後は実家のラーメン屋を継ぐことを決めており、笠松と梓汰民の受験勉強は専らこのラーメン屋で行われた。 受験勉強は神庭と大瀧歩美が協力してくれていた。基本的に遠藤と桜は分からない問題を歩美に聞き、何も分かっていない梓汰民を神庭が、笠松を片桐が教えていた。神庭は東京都内の医学部を志望しており、七月の模試で努力圏内との評価を受けた。 梓汰民は実家の仕事を手伝おうとしていたが、田中直哉の助言もあって大学へ進学することにした。志望大学は桜と同じ理由で同じ大学の教育学部美術教育専修。美大に進んでも職に付けられない可能性を考慮し、美術を生かして職を見つけられる教育学部へ進むことにしたのだ。 紅葉も見え始める九月。まだ受験勉強の効用が見えない中、明らかに変化が見られたのは歩美の腹の様子だった。 筋肉質の歩美の腹も、微かに膨らみが見られた。それを機に断食を始めようとした歩美を見て梶本夫妻が全力で止めた。 隠しきれないと感じた梶本は遠藤と笠松を呼び、歩美へ腹の子について説明をした。歩美は驚きこそすれど、それについて遠藤達を責めることは無かった。ただ、その事実を大瀧詠一に伝えることと、出産の際には大瀧の立ち寄りを許可することを求めた。 出産予定日は12月25日。丁度あの事件から一年後となる。それは大瀧雁真の誕生日を遠藤が覚えていたからだった。 受験の冬。センター試験があと一か月を切った12月25日。この日、物語が始まる。
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