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笠松は突然倒れた父親の方に近付く。その手には播磨忍のナイフが握られていた。
「ありがとう、父さん。父さんの切り札は『*(アスタリスク)』だったんだね。その能力は即死するはずなのに。」
「何を、したんだ…!」
「さっき潰した錠剤の粉を父さんの切り傷から侵入させたんだ。あの粉は未来からの贈り物で、誰かの能力を使えるようになる。あの錠剤に含まれていたのは『漢字能力』。父さんに『真』の意味を教えてから、質問したんだ。本当のことを言ってくれて良かった。…既にその能力は効力を失くしている。けれど、父さんはもう瀕死状態のはずだ。」
笠松はナイフを振り上げる。
「僕がとどめを刺す。」
終は仰向けに倒れる。意識が朦朧として能力を創る余裕が無い。既に勝負は決していた。終はナイフを振り上げる息子のもう片方の手を掴む。
「創…一つだけ、言っておきたいことがある…。私が母さんに、言われたことだ…。」
終はその言葉を笠松の手から脳に伝える。笠松はその言葉を聞き、父親の前にしゃがんだ。
「…ありがとう、父さん。」
「もう少しで、この戦いも、終わりだ…。勝利を、頼んだ…。」
笠松は終の心臓にナイフを振り下ろした。ナイフは心臓に深く突き刺され、終はゆっくりと目を閉じて力を抜いた。
笠松はナイフを抜くと血を拭きとってから懐にしまう。そして片桐の方に歩み寄った。
「終わったよ。暦、元気にしてたかい。」
「お兄ちゃん、あそぼ。」
「もうちょっとだけ仕事をしたらね。これが終わったら好きなだけ遊んであげるよ。」
笠松は片桐を抱きしめる。不思議と音は聞こえてこなかった。
一方、もう一つの親子喧嘩は一切の能力を使わずに戦っていた。
遠藤と拓正は己の拳を相手の顔に叩き込む。両者とも『*(アスタリスク)』を持っているために能力での争いを諦めたのだ。
「おおおおお!」
拓正の拳が遠藤の腹に沈む。遠藤は歯を食いしばって衝撃に耐え、腹に沈んだ拳を掴んでその場で跳び、拓正の首に回し蹴りを決める。
二人は同時に倒れるが遠藤は掴んでいた拓正の腕に脚を回して関節技の体勢に入る。それに気付いた拓正は強引に遠藤を持ち上げながら立ち上がり、遠藤の頭から体を落とした。
自分の体重と拓正の体重を頭で受けた遠藤は思わず拓正の腕から手を離して起き上がった。
両者とも息を切らしているが、その表情は晴れ晴れとして笑っていた。
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