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私が両親を失ったのは、3歳のころだった。
飛行機の事故だったらしい。乗客200人ちかくが亡くなる大きな事故で、遺体はみんな海の底。後で知ったことだが、その当時私は風邪をひいて祖母の家で留守番をしていたらしい。
大きくなって親戚から両親の話をされても、写真を見せられても、実感がなかった。両親との記憶は霧のなかをライトもつけずに歩くような、曖昧なものだった。
両親は私になにも残してはくれなかった。記憶も、感動も、教訓も、なにもないまま、いなくなった。私にとって両親の存在は、まったくの無だった。
それがとても悲しくて、寂しかった。
傷でも痣でも、罪でも罰でも、なんでもいい。なにかひとつ、私には両親がいて、関係性があったと証明できるものが欲しかった。
唯一記憶に残っているのは、今この場所と同じ風景。白と黒の幕。線香のにおい。遺影とそのまわりを飾る白い花。
だからなのだと思う。私が先輩を殺したいと思った理由。それは、恐らく先輩も同じだったはず。
「先輩の嘘つき」
先輩が寝ている棺の前で、私は泣いた。
交通事故。実にあっけない最後だった。
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