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 台風の接近により、ここ数日記録的な大雨が続いている。先輩を轢いたトラックは、その雨のせいで前が見えにくい状態で、さらにタイヤがスリップしてブレーキのききも悪かった。  即死だったらしい。  通夜も豪雨のなかで行われた。会場は家族や親族が座っていていっぱいになり、一般の焼香は外にビニールのテントが並べられて、そのなかにセットされていた。  「ご愁傷さまです」「まだ若いのに」「お辛いでしょうが」そういった声がきこえるなかで、先輩の遺影をみた。私が粉砕したはずの、ダサくて汚いメガネをかけていた。  先輩の嘘つき。私に殺されてもいいって、言ったじゃないか。死んだ人間をどうやって殺せばいいのだ。  先輩もまた、両親と同じように思えた。私に殺されてくれなかった。私に先輩殺しという罪をあたえてはくれなかった。  死とは喪失感であると先輩がいったのはつい最近のことだが、とても昔のことのように思えた。そして私も先輩と同じ考えを共有していた。
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