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死はすべてのものを奪っていく。両親も、先輩も、記憶や思い出さえも、すべての関係性を霞のなかに溶かして、そして消えていく。うれしいことや楽しいこと、悲しいことや辛いこと。それらも全部、いずれ消える。
感情というものは、エネルギーと一緒だと思う。プラスの感情でも、マイナスの感情でも、同じエネルギーのベクトルが違うだけ。エネルギーである以上、それが熱をもったり、涙になったり、体の外側に放出されればいずれはなくなる。それがゼロになったとき、人はきっと大切なものを忘れるのだ。
しかし、罪はちがう。私が忘れることを、周りの人が許さない。時間が経過して、事件が風化したとしても、ふとしたときに、似たような事件が起きたときに思い出すのだ。「ああ、あのときもそんな事件があったな」「そのときの犯人はあいつだったな」そんな風に語られる。
だから、私は先輩を殺したいと思い、先輩は私に殺されたかったのだと思う。
忘れたくないから。忘れられたくないから。
先輩……。
大雨のなか、傘もささずに家に帰った私はびしょ濡れのまま机の前に立った。
そこに積み重なった死のノートを抱えてまた泣いた。
ひとしきり涙を流したあと、私はある決断をした。そこにもう迷いはなかった。
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