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手の拘束から離れたペットボトルは、鳥よりも雲よりも自由に、先輩めがけて落下していく。
一方、先輩は自分の頭を狙う凶器がまっすぐ殺意と悪意をのせてむかってくるなどと想像もしておらず、のんきにあくびをしている。
今日という今日は、先輩を死にいたらしめることができる。私はほくそえんだ。しかし、まさかというか、やはりというか、あと一歩のところで先輩は死ななかった。
言葉の通り、あと一歩だった。
ペットボトルの落下地点。先輩の頭に大ダメージを与えるポイントの一歩手前で、あろうことか先輩は足をとめた。殺意と悪意に気付いたわけではない。その証拠に、先輩は下をむいている。右手はポケットに入れて、左手は自分のお気に入りである銀縁のダサくて汚いメガネを外した。
私はありえない光景を目の当たりにした。なんと先輩がメガネをハンカチで拭きだしたのである。ズボラの中のズボラ。ズボラを極めしもの。ひとつズボラを見つけたら、その陰には100のズボラがあるという私の先輩に対する評価からはまるで想定外だった。
その想定外のせいで、今回も私の殺人は失敗に終わる。
粉砕されたのは先輩の頭ではなく、先輩がきれいに磨き上げたダサくて汚い銀縁メガネだった。
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