1

4/6

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
 頭の悪そうな学生たちが悲鳴をあげるころ、私はあらかじめ8階にとめておいたエレベーターに乗って1階に降り、何食わぬ顔で野次馬の脇を通り過ぎた。 「真野君、ちょっと待ちたまえ。今のを見ていたか?」  その場を離れようとしていた私に声をかけたのは、たった今メガネを粉砕された先輩だった。当然のごとく、さも当たり前のように、極めて正当な行為であるかのように、私は先輩を無視した。 「おいおい、うぉい。今、目が合ったよね? 目が合った上で無視するのやめてくれる?」 「あ、オブツ先輩。気付きませんでした。ただの生ごみかと思いまして。目が合った? 言いがかりはやめて下さい。もしくは死んで下さい」 「相変わらず口が悪いな。それより見ていたか、今の。あろうことか僕のメガネが大惨事だよ。まあメガネでよかった。危うく頭に直撃するところだった」  この生ごみは、もしかしたら私が犯人だと知っているのだろうか。知っていてなお、私にカマをかけているのだろうか。そう考えたが、先輩の残念な頭ではそれは不可能なことである。チンパンジーがタイプライターを使って、偶然にも聖書を一冊つくりあげるくらい不可能である。 「いっそ、頭に直撃すればよかったのに」  私は下唇を噛みしめて地団駄をふみながら悔しがりたい気持ちを抑えて、満面の笑みで、天使のような笑顔で先輩に言った。 「もしくは死ねばよかったのに」
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加