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あっしが産まれたのは辺境の星の小さな島国でしてね。狭っ苦しくて、息が詰まりそうでしたよ。
思い出すのは夏の暑さですねぇ。夏になると高く高く恒星が上がるんですよ。たっぷりと熱気が伝わってきましてね、そのくせ大気はじっとりと湿っているという、なんとも過ごし難い季節でござんした。
夏なんてなくなりゃいいのに。そう、思ってやした。ただ、夏だけが嫌いだった、てぇワケでもなく、冬になりゃ冬なんていらねえ、春は春で鬱陶しい、とまあ、何もかもが気に食わないと言って、とんがってるガキでした。
とにかく自分の周りの環境にイラついてましてね。こんな所、出てってやる、考えるのはそればっかりでした。
それで宇宙船乗りになって、故郷を飛び出しやした。感動しましたねぇ。宇宙てのは思ってたよりずっと広いもんだと驚きましたよ。
宇宙船は良いもんですねぇ。暑いも寒いもない。湿度も完璧にコントロールされて、快適でございましょう? もちろん、不快だな、と思った瞬間にはもう手遅れって事もある。宇宙で生きるのは、そういう厳しさと紙一重だって事は、今じゃあ身に染みてわかってやす。
それでも、あの時は嬉しかったですねぇ、気にいらない故郷から出られた時は。
仕事は、商船の下働きをしておりやした。給料は安いもんでしたが、あっちの星、こっちの星に行けるのが楽しゅうございましたよ。
長年働いて、色んな星と国を見て参りやした。イスネイアの水中都市や、Bk523の地表紋様の美しさは今でも目に焼き付いてやす。何もかもが目新しくって、夢中になって働きました。
そんなもんで、そっちの世界から足を洗った後も、ふらふらとあちらこちらの景色を見て回っておりやした。
ですが、ある時ふと思い出したんですね、故郷の風景を。宇宙中を見て回ったはずですが、何故か思い出すのは故郷の星のことばかり。あの鬱陶しい夏の暑さが、無性に懐かしくなるんでやす。
国を飛び出してからその時まで、一度も戻ったことはありません。今になってなんで、と思いましたねぇ。でも、帰りたい、と思っちまうんです。自分の居場所はここには無いと思ってた場所に、帰りたい、ってね。
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