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「今日子はいいよね、亘理先輩優しそうだし」
最近ハマっているキャラクターの付いたシャーペンを、右手でカチカチ鳴らしながら、つばさはため息をつく。
ゴールデンウィークの時間を持て余していたつばさは、たまたま体験価格の安かった塾へ、友人の今日子と共に短期学習へ来ていた。
「でも、先輩が大学に行ったらあんまり会えなくなっちゃった」
今日子もつばさにつられて、深いため息をついた。
「ゴールデンウィークも、私と一緒に塾に来るぐらいだもんね」
つばさは教室を見渡す。
体験特価のおかげか、20人は入りそうな教室はほとんど席が埋まっている。
(休みの日なのに、勉強してる子はしてるんだな…)
普段全然勉強していない自分が差をつけられるのも、納得がいく。
キョロキョロしていたら、もういい加減暑くなってきているのに、ニットキャップとマスク姿の男子が、前の席に座っているのが目についた。
変な子だなと思いつつも大して気に留めずに、つばさは話し続ける。
「私も彼氏欲しいよ~」
「つばさ、モテないわけじゃないじゃん。中学の時だって、相馬君に真剣告白されてたじゃん」
「だって、告られるのって、友達ばっかりだもん。嫌じゃん、好きでも無いのに適当に付き合って、友達関係が崩れちゃうのもさ~」
確かに、つばさは時々告白される。
その大体が仲の良い男子で、大抵、仲良くなり過ぎて告白されて、ちょっと気まずくなって少し距離があいてまた元に戻るパターンだ。
「そう言えば、つばさの口から好きな人の話って聞いた事が無いね」
「……私、恋ってした事が無いのかも」
思えば、高校2年の春になった今まで、薄く好意を感じる事はあっても、この人が好きでいつも一緒にいたいと思うような、強い気持ちになった事は無かった。
「今日子とか、涼香とか、クラスの友達とか見てるといいな~って、最近すごく思って来て」
「そう?」
今日子はニコニコしてつばさの話を聞いている。
「そうだよ~。そもそも高2にもなって、初恋もまだなんて…、私どっか人間として欠落してるんじゃないかって、最近マジで不安になってきてるよ」
つばさの前に座っている、ニットキャップの男子の肩が、笑いを堪えて軽く震えたのに、つばさは気付かなかった。
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