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暑い日だったが、外の風は涼しい。
つばさの背中に汗がつたう。
「なんで、よりによって私なの?」
「いいじゃん、別に」
「別に、って…。なんか投げやりな感じ~。だって別に片倉、私の事好きなわけじゃないじゃん。なのに付き合いたいって、すごい不審なんだけど」
「不審」
片倉は楽しそうに笑った。
そんな風に言われた事が無いのだろう。
綺麗な顔を崩すその笑顔を、つばさは初めて『いいな』と思った。
「いいじゃん、好きになっていけば」
「塾の話、聞いてたんでしょ?そんなに簡単に、そういう意味で好きになれないよ。付き合うって、友達と違う『好き』なんでしょ」
男子だって、友達として好きな子は沢山いた。
それでも恋愛として意識するような人はいなくて、そんな感情がどんなものか、つばさは分からなかった。
「あの時の梅田さんの話聞いて、オレも思ったんだけど」
「………」
「オレも、誰かの事…考えてみればそんなに好きって思った事って無いかもなって」
「え?そうなの?」
「なんか、感情が追い付かないうちに告られて、すごくいいなとか好きとか、思う前に付き合っちゃう事が多くて」
「ああ~…そんな感じっぽいよね、あんたって」
片倉がそんな感じだという、その辺りはつばさにも想像できる。
「何かオレ、ぶっちゃけてるけど」
そこで彼はまた笑う。
「梅田さんとオレ、全然違うかも知れないけど似てる気もするし、まあ何より顔が好みだし、しゃべってみたら何か楽な子だし…。とにかく、今、オレ、梅田さんに嫌なトコ無いし」
「ええ~…」
(嫌なトコ無いとか…すごい事言うなあ…)
男子にそんな風に言われた事は、もちろん無い。おまけにこんな美形に『顔が好み』だと言われて、つばさは自分がいたたまれなくなってくる。
(なんかスラスラこういう事言える片倉って、やっぱりすごい)
「私のこと、知れば知るほど、逆に印象が悪くなっていくかもよ」
(私なんか大した人間じゃないのに…)
つばさはため息が出る。
「あと、私の顔が好きとか、ちょっと片倉くんって変わってるよね。分かった、普段美形の自分見過ぎてて、私レベルの顔が新鮮に見えちゃうんだ、きっと」
「…可愛いけどね」
片倉は手を伸ばして、つばさの頬を触った。
反射的に、つばさはイスごと体を引いてしまう。
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