1.聞かれちゃった本音

2/3
490人が本棚に入れています
本棚に追加
/236ページ
「今日子はいいよね、亘理先輩優しそうだし」 最近ハマっているキャラクターの付いたシャーペンを、右手でカチカチ鳴らしながら、つばさはため息をつく。 ゴールデンウィークの時間を持て余していたつばさは、たまたま体験価格の安かった塾へ、友人の今日子と共に短期学習へ来ていた。 「でも、先輩が大学に行ったらあんまり会えなくなっちゃった」 今日子もつばさにつられて、深いため息をついた。 「ゴールデンウィークも、私と一緒に塾に来るぐらいだもんね」 つばさは教室を見渡す。 体験特価のおかげか、20人は入りそうな教室はほとんど席が埋まっている。 (休みの日なのに、勉強してる子はしてるんだな…) 普段全然勉強していない自分が差をつけられるのも、納得がいく。 キョロキョロしていたら、もういい加減暑くなってきているのに、ニットキャップとマスク姿の男子が、前の席に座っているのが目についた。 変な子だなと思いつつも大して気に留めずに、つばさは話し続ける。 「私も彼氏欲しいよ~」 「つばさ、モテないわけじゃないじゃん。中学の時だって、相馬君に真剣告白されてたじゃん」 「だって、告られるのって、友達ばっかりだもん。嫌じゃん、好きでも無いのに適当に付き合って、友達関係が崩れちゃうのもさ~」 確かに、つばさは時々告白される。 その大体が仲の良い男子で、大抵、仲良くなり過ぎて告白されて、ちょっと気まずくなって少し距離があいてまた元に戻るパターンだ。 「そう言えば、つばさの口から好きな人の話って聞いた事が無いね」 「……私、恋ってした事が無いのかも」 思えば、高校2年の春になった今まで、薄く好意を感じる事はあっても、この人が好きでいつも一緒にいたいと思うような、強い気持ちになった事は無かった。 「今日子とか、涼香とか、クラスの友達とか見てるといいな~って、最近すごく思って来て」 「そう?」 今日子はニコニコしてつばさの話を聞いている。 「そうだよ~。そもそも高2にもなって、初恋もまだなんて…、私どっか人間として欠落してるんじゃないかって、最近マジで不安になってきてるよ」 つばさの前に座っている、ニットキャップの男子の肩が、笑いを堪えて軽く震えたのに、つばさは気付かなかった。
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!