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「うーん、別につばさがどっか欠落してるとは思わないけど、ちょっと男子を男として意識しなさすぎなのかもね~」
「だってクラスの男なんて、友達って感じで。今日子みたいに年上の男の人だったら、また違うのかなあ…」
そんなつばさを見て、今日子は少し考えて答えた。
「じゃあさ、うちのクラスに1人イケメンいるじゃん、片倉って奴」
「どんな子だっけ~…?」
4月にクラスが変わったところなので、つばさはまだクラスの全員を覚えていなかった。昼休みには、今日子と共に1年の時に仲が良かった友人と一緒にクラスの外でランチしていた。そのせいもあり、つばさは名前を聞いても顔と名前が一致しないのだった。
「え~!覚えてないの!クラス替え直後に女子がめっちゃザワついてたじゃん!」
「そうだっけ~?…ああ、あのキラキラした子か」
確か顔のキレイな男子がいた気がする。
美形に興味が無くて、彼のイメージを思い出してもまだ漠然としていた。
前に座っている男子が、チラっと振り返った。
マスクと重装備な眼鏡をしていて、ひと目で花粉症だと分かる。
うるさくしてしまったのかと思い、つばさと今日子は小声になる。
「片倉くんとか超カッコいいし、さすがのつばさでも意識するんじゃない?」
「え~、あのキラキラ?あんなキラッキラなの、別世界過ぎて無理無理!」
「そうかな~、目の保養になるじゃん。せっかく同じクラスなんだから、どうせなら片想いでもいいじゃん。あんなイケメンそうそういないよ」
「え~、ヤダよ。ああいうキラキラな子って面倒くさそうじゃん。女子を敵に回しそうだし、何の修行?って感じ。私はもっと普通に爽やかな子がいいなあ~」
勘弁してという顔で、つばさは肘をつく。
「じゃあ具体的にどんなタイプがいいのよ」
「そうだなあ…強いて言えば~…」
そのまま、つばさの好みの話と今日子の好みの話がゴチャゴチャになって、盛り上がっているうちに教師が教室へ入って来る。
そこで自然と会話は途切れた。
つばさの前の席に座っていた男子が、花粉症用の眼鏡を外し、ケースの中の普通の眼鏡と交換して、かけなおす。
(つばさ、って誰だよ…。オレも知らないっての…)
そしてテキストに書かれた『片倉』という名前を、そっと左手で隠した。
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