もうやめてやる!

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 高居は「反対です」と首を横に振る。 「急な就任でしたから、社長の能力を疑問視する声も多い。社内でも反発があるでしょう」 「覚悟を示すためには悪くないと思うのだが」 「就任挨拶の時なら、あるいは覚悟として理解頷くことも出来たでしょう。ですが、もう遅いと考えます」  高居が諭すように言うと、宮下が驚愕に目を見開く。 「就任挨拶なら良かったのか。難しいな、君は」 「私は関係ないでしょう。とにかく反対です。別の機会にしましょう」  高居が頷いて見せるも、宮下は未練がましく高居を見やる。高居が間を置いて繰り返し言う。 「別の機会に」 「別の機会にね」 「別の機会にちまちょう、ねー」  おちょくるように首を倒すと、宮下も同じ動きで「ねー」と声を出して首をひねった。そこから電光石火の切り替えしで、宮下が唾を飛ばして怒鳴りつける。 「馬鹿にしているのかね! 私を何だと思っている!」 「脂だと思っております」  高居は背筋を正して生真面目に答えた。高居の視線が山咲の腹に落ちる。視線を受けた宮下が突き出た腹を艶やかになでまわし始めた。宮下自身も視線を腹に落とし、愛おしそうに見つめる。 「そう。ここにたっぷりと脂がのって、いい具合に霜も振って」  宮下が目を見開き、高居に勢いよく顔を向ける。 「――誰が霜降りの美しい肉だ!」  それから宮下が照れくさそうに身をよじる。 「持ち上げないでくれ。私なんて、せいぜいスーパーの安肉だよ」 「肉とは言ってない! 微妙な自虐入れて嬉しそうにすんな!」  高居が思わずと言った風で叫ぶ。宮下が高居を仰ぎ見る様に、ずい、と距離を詰めた。 「君、ちょいちょい言葉がフランク過ぎやしないかね。社長だぞ、私は」  鼻息が頬にかかる程に接近する宮下の顔。高居は顔をしかめて宮下から一歩遠ざかった。
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