84人が本棚に入れています
本棚に追加
海斗と名乗ったふざけた口調に一瞬気が緩むが私の部屋になぜこの男がいるのかと考えながらすぐに頭を切り替える。
物盗りなら金品を差し出せばいいし
猥褻目的なら、包丁はすぐ後ろ。突き立てれば逃げられる。
素知らぬフリで冷蔵庫からミネラルウォーターを出すと一気に中身を押し込んだ。
まずは気を落ち着かせよう。そう思ったその時、男はスルリと足をしなやかに動かしたのが、横目に見えた。そして気付いた時には首筋に冷たい感触が這っていた。
「や、やめっ!」
手を掴まれ、叫ぼうとした時
「凛……」
愛しい人を呼ぶような、そんな甘い響きに動きが止まる。
唇が首筋から顎へあがり、頬を捕らえられ拘束された手は柔らかく下ろされた。
「アナタ、なんでいるの?」
なぜ、会っていた蓮ではなくこの男が部屋にいるのか皆目分からなかった。
(まあ、蓮は部屋には来ないけれど)
酔っぱらって、私が連れ込んだ?
そう言えば昨日、バルに寄ってからの記憶が曖昧だ。
「ん?オレは凛のオトコになった男だよ?」
「んっ……」
唇にチリッと痛いような熱を帯びながら男は私の唇に舌を入れた。
柔らかく侵食して来る舌に翻弄されながらぼんやり思い出す。
(この感触、知ってる。確か……)
唇を離した途端、寂しいような気持ちになるのはなぜ?
「思い出した?凛ちゃん?」
『海斗』は微笑んで私を見下ろすと下唇を舐めた。
その瞬間記憶の底を呼び起こす小さな鈴の音を遠くで聴いたような気がした
最初のコメントを投稿しよう!