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「なんでころしてくれないの」
死ぬ覚悟も無いくせに、私の口は舌ったらずにもそう言っていた。
かけている眼鏡がずれて、声をかけた相手はじんわり滲んで見える。
半年前に側仕えとなった青年は、その言葉に肩をすくめたようだった。
「飲みすぎですよ、姫」
そうして、青年は手を伸ばす。
でも、そう簡単にお酒は盗らせてやらない。
そう思っていたら、眼鏡のツルをつかまれた。
ぼんやりしていると、視界に明確な色が戻ってくる。
どうやら、ずれた眼鏡を直してくれたらしい。
それは有難いのだけど………。
「………クラン、いつまでさわってるつもりよ」
位置を直して役目を終えたはずの手は、私の頬に触れたままゆるりと撫でる。
お酒で少し麻痺した頬には心地よいが、いささか心中がよくわからない。
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