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「矛盾?」
クランは苦笑をすると、あろうことか私の顎を人差し指で掬い上げる。
レンズ越しではっきり見える彼の藍色の瞳に、妖しげな光が灯った。
「わかりませんか?お・ひ・め・さ・ま」
目がそらせない。
大きな口が今にも私を喰らいそうで、こわい。
「ク、ラン?」
声がうまく出ない。
拳ひとつ分が今のクランとの距離。
見慣れたメガネのフレームに、クランの黒髪が混じる距離。
そんな距離で、クランが舌なめずりをした気がした。
「あんたを横取りされたくないからですよ、報酬は大きいですからね」
『報酬』と言う単語に我に帰った。
そう、私はあくまで『ターゲット』だ。
なるほど。確かに矛盾はしていない。
お酒の効力は切れているはずなのに、頭がうまく働かない。
「くっくく………まぁいいですよ、今は」
するりと呆気なく離れていって、クランは不敵な笑みを浮かべた。
「なんで………ころしてくれないのよ」
駄々をこねるように言ってしまった。
でも、どうせ終わらせるのならば、クランの糧にはなりたい。
半年間分のお礼代わりに。
こんなことに巻き込んでしまった謝罪の代わりに。
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