世界の果てで、君に番外編・聖太郎サイド1

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『伊丹さん クール・アーキテクチャ・デザインって会社 御存知ですよね?』知ってるもなにも、この前のコンペで俺を採用してくれた会社だ。 『そこの会社に昨晩 事務所荒しが入りましてね・・・ちょっとお話を伺いたいんですが 署までご同行願えますか?』これって、もしかしなくても、任意同行ってやつ? 『なんですか 俺なにもしてないですよ?』『だからそれを確認するためにお話をお聞きしたいんですよ』 こういうのは基本、拒絶しないに限る。今日はもう用事はないし。任意なら基本、望めばその時点で帰れるはずだ。そう覚悟を決めて。 取調室に入るなり、いきなり強面に変身する刑事たち。 『あなた昔 ずいぶんやんちゃしてたみたいじゃないですか? 今回もその血が騒いだんじゃないですか?』 どうやらこいつら、俺を犯人だと決めつけてるみたいだ。もし、あのとき任意を断っていたらきっと、逮捕状で連行されてたところだったのかも。 たしかに俺、家を飛び出してからしばらくはめちゃくちゃな時もあった。同じような境遇の奴がいっぱいいて、お互い気が許せて。 多少の悪いことなら、やった。喧嘩騒ぎで執行猶予食らったとき、親父から勘当寸前までキレられたのを、義理の母が取りなしてくれたっけ。 『現場から こんなものが見つかりましてね』そう言って見せられたキーチェーンで、すべてを悟った。 それは昔、大翔にやったものだ。俺のイニシャルが彫ってあるけど、どうしても欲しい、っていうから。 返す言葉もすぐに出てこない。大翔を売る気にもならない。…裏切ったのは、あいつなんだろうけど。 ー・・・こういったとき、黙秘したければ弁護士が呼べる、と聞いたことがあるが。 大翔には借りがある。家を飛び出て右も左もわからない俺を、なんの見返りもなく拾ってくれたのが大翔だ。 あいつは母親の連れ子で再婚した義理の父と馴染めずに、結局中学2年の時、相手の男に歩けなくなるほどの怪我をさせ、両親からの依頼で少年院に入れられた。一年で出てこられたものの、家に帰りづらく、以来、渋谷を寝床にするようになった。そんなとき現れた一つ下の俺を、弟分として扱ってくれた。たとえ自分が食うものに困ったときだって、俺に食わせてくれた時もあった。なにをするのも一緒だった。ー・・・そう、もちろん女遊びも。 俺にデザインの道を指し示してくれたのも、大翔だ。
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