17人が本棚に入れています
本棚に追加
『あ・・・起きた?』
目線を画面から後ろに移しつつ、様子をうかがう。どうやら本当に目が覚めたみたいだ。
安心させるために俺のウチだから、って伝える。・・・てか、このシチュエーションなら、言われなくてもわかるだろうけど。
『・・・ゴメン 俺 倒れちゃったのか・・・』
倒れたくて倒れたんじゃないんだから謝らなくてもいいのに。そう思いつつ、センセの一人称が『私』から『俺』に変わってるのにいまさら気づく。これが素なんだろう。
『なにか飲む?』本当は晩飯時だからお腹も空いてるんだろうけど、倒れた人に食欲があるかどうか。
水を、と言われて冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。近頃は水道水も飲めるらしいけど…実は俺、水には割とうるさかったりして。
一気に飲み干すセンセ。熱があったからきっと喉が乾いたんだ。俺が椅子ごと、センセの方へ移動すると、思い出したように、大翔がもうすぐ起訴される、と伝えてきた。
・・・この人にはきっと、善と悪しかないんだな。だから曲がりなりにも友人の俺に、大翔のあまり喜べないような現状も素直に伝えてくれてるんだろう。・・・ちょっと複雑な気持ちになりながらも、この人の真っ直ぐさ、実直さは天性のものだな、って確信する。・・・まさに、検事になるべくして、生まれてきたような人。
『あれは・・・伊丹君の作品?』センセがまるで子供のようにキラキラした目で見つめる先に、さっきプリントアウトした俺のコンテスト用のデザイン画。たった今、ノーパソの上にあるコルクボードに貼り付けたばかりだ。
『俺 自分じゃそういうこと出来ないから・・・なにも無いところからこういうのを作り出せるって 凄いよ』
・・・さも超有名アーティストの展覧会でも観るかのようなセンセの様子に、口の中が酸っぱくなるような、気恥ずかしさがこみ上げる。・・・ゴメン、でも俺 ただの一無名のデザイン屋なんで・・・、って。
時計を見ながら、そろそろ帰らなきゃって、センセが立ち上がった。一瞬寂しくなる。
でも、引き留める理由なんか、ないし。
ー・・・けどセンセ、また倒れ込んじゃった。急いで腕を支える。
『無理しないで 落ち着くまで休んでいけば?』言いながら、俺、妙な感覚におそわれる。
ー・・・離れたくない もうちょっとそばにいたい って・・・ー
最初のコメントを投稿しよう!