第三章

4/4
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
少しの沈黙が流れた。いろんな言葉を探してみても、何を言えばいいのか分からなかった。すると、静かに彼が口を開いた。 「ねぇ、裕理、もっとシンプルに考えて」 そういう彼の声は、深呼吸をしてみてとでもいうように、穏やかに私のところへ届いた。 「君は、僕のことをどう思ってる?」 絡まっていた糸がほどけていくような感覚。 「…好きだった。あの頃からずっと、今も、好きだよ」 それだけ言うと、私はまた泣いていた。彼の乗った車が走り出したあと、ただひたすらに泣きじゃくったあの頃のように。 「ありがとう。随分、遠回りしちゃったね」 彼はそう言うと、私を優しく抱き寄せた。私の髪に顔を埋めていたせいで顔は見えなかったけれど、彼も泣いているような気がした。 これからは二人で未来を描いていけたらいい。夢を見るだけじゃなく、自分たちで作り出す未来を。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!