第三章

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「気持ちを伝えないまま離れてしまったから、ずっと後悔していたんだ。電話をして伝えることもできたかもしれないけど、それもなんだか違う気がして、想いを抱えたまま気付いたらこんなに歳を重ねちゃった」 予想もしていなかった、彼からの告白だった。どうやらお互い、同じ想いで今日まで過ごしてしまったようだ。 「私に…彼氏がいるかもしれないって、考えなかったの?」 心の底から嬉しいのに、素直になれない言葉が口を衝いて出る。素直になることも、夢を追うことも、大人になるにつれてどんどん忘れていくのだ。私は、何になりたかったのだろう。 「考えたよ。それでも、言って返事をもらわないと次に進めないと思ったんだ。イエスでも、ノーでも」 どうして彼は、こんなに真っ直ぐ生きてこられたのだろう。今の私には、眩しすぎる。いつだって彼は、羨ましいものばかりを持っていた。いろんな土地を見て回れる環境。人に流されずに、好きなことにばかり没頭する芯の強さ。夢を追い続けられる精神。真っ直ぐな心。私にないものばかり。 「私ね、あの頃から何も成長してないよ?」 「うん」 「今なんて、やりたいことも分からずにフリーターで」 「うん」 「毎年毎年、夏なんて来なければいいのにって思ってた」 「…うん」 そう、彼と夢を語り合ったあの夏を思い出すから。今の自分がどうしようもない人間になったような気がして、誰にも胸を張れなくなった。そんな自分と向き合うことが怖くて、気付いたら夏が怖くなったんだ。 「ずっと、聡志君に胸を張って会える私になりたかったの。なのに、少しも変わらないまま大人になっちゃったから、どうしていいか分からなかったの」 「うん」 彼はずっと、ただ頷いてくれていた。優しい笑顔を携えて、ただひたすらに言葉を続ける私を待ってくれているようだった。
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