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壁が無くなったのは、昼前のことだった。
屋根に積もった雪は一通り処分し終えて、次に路肩へ寄せられた雪を片付けようかという時分。
ズズズ、と地響きがして、視線を遠くにやると、氷の壁が地面に呑み込まれていくところだったのだ。
「うわぁ…」
周囲の人たちも作業を止めて呆然としている。沈む氷は最期の煌(きら)めきを放ち、ミラーボールのように村を照らした。
あれだけの重量と質量のあるものを一気に闇に仕舞うとか、父さまの魔力量はどうなっているのだろう。
「ヘバったりしないのかな。」
「それなりに疲れてはいるみたいですけどね。」
「母さま!」
いつの間にか母さまが背後に立っていた。『テレパシー』で会話はしていたものの、会うのは5日ぶりだ。声が弾んでしまうのも仕方がないと思う。
「父さまは?」
「アレの根元にいますよ。仕舞い終わったら屋敷に戻るんじゃないですか。」
疲労も溜まっているでしょうし、と肩を竦める。
あの氷の壁は、山脈から降りて来る暴風から村を守るために父さまが創ったものだという。常に吹き付ける風に対抗するため、創った後も魔力を供給し続けて硬度を保つ必要があったとかで、相当な魔力を消耗したらしい。
本来であれば寒波が去った昨晩のうちに片付けて良かったところを翌日の昼まで放置していたのだから、その消費量は推(お)して知るべしといったところだ。
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