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「…ん?」
バサリと大きくはばたいて、宙で一時停止する。
――今、何か変だった。
キョロキョロと周囲を見渡すと、一瞬チカッと光が通った。なんだろう、宝石をゴテゴテと着けた宝飾品にスポットライトを当てた時のような。
あっちだ、山脈がある方向――
そう思ったところで気付いた。
――……マジか。
口をあんぐりと開けてしまい、冷気が肺腑にどっと流れ込んで来る。身体が震えたのは冷気のせいか、この光景のせいか。
…空が、空じゃない。
正確に言うと、間に透明の壁があるのだった。
村の北側、その周囲に氷の壁が建っている。え、何㎞あるんだコレ。横幅は勿論のこと高さもヤバい。村1番の高さを誇る時計塔を優に超え、飛んでいる僕が見上げる高さまで聳(そび)え立っている。
絶対に自然物ではないソレは、驚きの透明度だ。空気が入る一分の隙もなく、それなりの厚さであるだろうに村の向こう側を完全に透過している。
陽光で乱反射しなければ、気付くまでもう少し時間を要しただろう。
――こんなことが出来るのは、
「父さまか…。」
そう言えば寒波が来た当初、父さまの魔力を感じたのだった。きっとコレを作っていたのだ。
こんなの作ったら流石の父さまも魔力が枯渇したんじゃないだろうか、大丈夫かな。母さまは何も言っていなかったけれど。
「コトハさまー!」
呼ぶ声がして下を見ると、雪下ろしをしていたのだろう土産物屋の店員が手を振っている。同じように屋根に上っている村人や路面にいる村人たちも僕に気付き、手を振ったり帽子を取ったり。
「…今、手伝うよ。」
一旦、氷の壁については忘れることにして、僕は降下を始めた。
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