5人が本棚に入れています
本棚に追加
「ち、違います、私はただ子供の声がしたから…」
しかし不思議なことに池にもどこにも子供の姿などは見られなかった。
「今、確かに声を聞いたのだけれど」
訝しがる私を見て安堵の息を一つ吐き出して彼女は応えた。
「それは今飛んでいった鳥の鳴き声よ、とても子供の声と似ているわ、私はアオツバメと呼んでいます」
アオツバメ、聞いたことない鳥だ。
「ごめんなさいね驚かして、貴女が自殺するのかと思ってしまって、でもこの池は本当に危ないの、淵がえぐれていて、落ちたら最後上がってこられないわ」
私は池の淵から静かに退いた。
「あ、あの私は、別に自殺しに来たわけではありません、その、真理亜という女性に会いに来たのです」
するとその女性は少し驚いた様子の後、優しく微笑んだ。
「貴女が、真理亜さん、ですか?」
その小さな池には日差しが降り注いでいたから、暗い樹海の森の中では、妙に明るく彼女の白い修道服を神々しく見せていた。
彼女が口を開くまでの少しの時間。
「はい、真理亜は私ですが」
私のことをほんの少しも疑わずに彼女は微笑んだまま応えたから、私も真実を話した。
最初のコメントを投稿しよう!