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「お母さん、お母さんは僕のものだ」
その声を聞いて私は動きを止めてしまった、男性の声だった。
厨房に入る手前の食堂で聞き耳を立てる、真理亜さんではない、男性がいるのだ、その姿は見えない。
「今はやめて、祐也、新しいお客様が来たの」
「知ってるよ、見てたもん、あの女、いつもの客と違っていた、思いつめた顔してなかった」
祐也?お子さん、なのだろうか。
「そ、そうね、あなたや他の迷える人達とは違う、目的を持っている人なの、あ、あなたにも紹介したいの」
「紹介なんてしなくていい、あの女、いついなくなるの?」
「あ、あっ、す、すぐいなくなるわ、お話が済んだら、あ、明日にでも…」
「あ、明日…、お、お母さんは、ぼ、僕のものだ」
「あ、やっ、やめて、ゆ、祐也、あっ、ああ」
それ以上聞くのは怖くなり、この場所を立ち去ろうとしたその時。
ボーンッ、ボーンッ、ボーンッ
壁に置かれたアンティーク時計の時報が六回鳴った。
ひいっ
咄嗟に両手で口を覆って声を殺したが。
「お願い祐也、離してちょうだい、夕飯の支度をしなくちゃいけないの」
「お、お母さん」
「大丈夫、私は祐也、あなたのもの、ね」
「誰だっ」
「!」
「誰か、そこにいるのか?」
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