聖母のレクイエム

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厨房の中から男が出てきて辺りを見回した。 私は既に階段の途中に逃げていた、間一髪見つかることはなかった。 こっそりと祐也という男の姿を観察した。 それは、中年男性だった、太っていて、頭髪も薄い、染みだらけの長袖シャツ、明らかに年齢も真理亜さんより年上だ、こんなのが息子のわけがない。 私は部屋に逃げ込んだ、幸いに鍵がかけられたから良かったが、悪寒が走った。 それから三十分もすると部屋をノックする音が聞こえた。 「夕飯の支度ができました、食堂にいらして下さいね」 行かない訳にはいかないだろう。 既に夕飯どころか此処から早く立ち去りたい気持ちになっていたが、真理亜さんの話を聞かなくてはレポートが書けない、この期に及んでと腹をくくり食堂に向かった。 祐也と言う中年男性は見当たらず真理亜さんだけが嬉々としてお皿をテーブルに並べていた。 食事は本当に質素な物ばかりだったが、何を出されても食欲なんぞわかないだろう。 真理亜さんのお祈りの後、とても静かな晩餐が始まった。
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