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何処か恍惚とした表情で語るストレングスの腕の中で、ラッドは痙攣した。
台詞の前半部分の妙な真剣さが恐ろしかった。
しかしそんなラッドに負けず劣らず、ミストレスも恐怖で震えていた。
こいつ、やると言ったら多分やる。
冗談などではなく、ましてや牽制などでもない。
本気でそれを実行するつもりなのだ。
ストレングスの誕生から連綿と続く奇行、暴行、ご乱心の数々が、ミストレスの脳裏に浮かんでは消えて行く。
就任したての部下へのそんな無体はさすがに許す訳にはいかない。
ようやく腹を括ったミストレスが盛大な溜息を吐き出し、長い髪をかきあげた。
「わかったわ…ラッドは置きなさい。執務室へ戻る」
ストレングスの腕からラッドを引っぺがすと、ソファに転がす。
ついでにストレングスの腕をとると、ぐいっと引き上げた。
その動きにつられて、ストレングスが立ちあがる。
その顔にはこれ以上無いほどの嬉々とした笑顔が浮かんでいた。
「ミストレス~?もしかして、ラッドにヤキモチ妬いた?」
立ちあがるだけに終わらず、彼女の腰に腕を回して、ストレングスは楽しそうに呟く。
「ラッドの名前を知っていたの?」
「同じ場所で生まれた仲間の名前はみんな覚えてるわ」
その頭を他のコトに活かせないものかと思いつつも、ミストレスはストレングスを引き摺るようにして歩き出した。
「ん~、この細腰のどこにそんな力があんのか不思議でたまんないわ。あ、そっか、アタシに散々ヤられて体力がつい…痛ッ!なにすんのさ!もうっ!これ以上馬鹿になったらどーしてくれんだよ!」
殴られた頭をさすりながら、ストレングスは器用にも片腕で彼女にしがみついている。
「これ以上。…自覚はあったのね…」
「はぁ?ノリよノリ!このアタシが馬鹿なわけないじゃない。天才科学者マグラが直々に弄った頭脳の持ち主、このストレングス様が」
胃痛に続いて頭痛までしてきた気がして、ミストレスは額に手を当てた。
そんな疲労困憊の彼を気にする事も無く、ストレングスは笑顔全開でミストレスを見上げた。
「なー、ミストレスちゃーん?」
なんだ、とミストレスがストレングスを見上げた。
「愛してるぜ!」
やけに男前な告白に、ミストレスは眩暈を覚える。
「こんな仕事もう辞めたい…辞めてやる…」
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