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そんな眼鏡が本当にあるとは信じられなかった。
素人が考えそうな映画やドラマや小説のネタでしかないと思っていたのだ。
自分の寿命が見える眼鏡なんて。
だから最初は人を担ごうとしているんだろうと小馬鹿にして、
「俺がそれかけて鏡覗いたら、頭の上に数字書いた紙とか出して笑うんだろう」 と茶化したら、
「長谷川……いいからやってみろよ」 と加藤はなぜか真顔で言った。
いまだに近所に住む小学校からの幼なじみは、まだ四十を過ぎたばかりだというのに額がずいぶん広くなっている。
この男は昔から冗談のわからない奴だったとちょっと憤慨して、テーブルの上のべっ甲細工の眼鏡をひったくるようにつかんだら、加藤がいきなり俺の手首をつかんだ。
「本当にいいんだな」
正面から俺を見る表情は真剣だった。
まさか、これは冗談じゃないのか。
本当にこの眼鏡を掛けると自分の寿命が見えるのか。
俺は思わず唾を飲みこんだ。
「マジなのか」
加藤はつかんだ手を離し、おれに視線を向けたまま小さくうなずいた。
「自分で掛けたってことか」
俺の言葉に目をふせた。
「本当に見えたのか」
「……三日、みたいだ」
加藤は大きくため息をついた。
「ちょっと待てよ。お前、それ信じてんの? なんかトリックか仕掛けがあんじゃないの」
俺は眼鏡を近づけて隅々まで観察した。
ありふれたべっ甲のフレームだった。
レンズはただのガラスで度は入っていないようだったし、外側から覗いていろいろ角度を変えてみたが、数字が浮きあがって見えるようなこともなかった。
蔓の部分にカメラが仕込んであって、人が掛けると前方に数字を映し出す仕掛けになっているんじゃないかと調べてみたが、そんな細工もなかった。
加藤は放心状態で青い顔をしている。
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