ある夏の暑い日のこと

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「彼女の体は、夏まで持たないでしょう。」 医者の言葉だ。 何度も頭のなかで繰り返される。 そんなことはお構いなしに、彼女は話を続ける。 「そうだよ、甲子園!!」 「ああ、いいなっ・・・。」 彼女の笑顔を前に、思わず視界が滲んだ。 「あれぇ、どうしたの?」 「いやっ、いいな甲子園、1回戦から投げ続けて、いよいよ決勝!だけど僕の体はもうボロボロで・・・。」 滲んだ視界のなかの彼女は相変わらず笑顔だった。 「うん、それで?」 「みんなの声と、お前の声が聞こえて、頑張らなきゃって、最後まで投げきる!!」 「それで、優勝!!」 「そうだ、それをスカウトが見ててドラフト1位でプロ入りするんだ・・・!」 言葉が溢れてくる。 恐らく叶わないとわかっている強い思い。 「すごい夢だね!!叶うかな?」 「叶う・・・、叶えるから、だから・・・。」 「だから・・・、生きてて、くれよ・・・。」 はかない願いに涙が溢れて、彼女の膝に崩れ落ちる。 彼女はそんな情けない僕の頭にそっと手をあてるだけだった。
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