ある夏の暑い日のこと

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「頑張れぇ、少年・・・。」 彼女はいつもと変わらない口調で続けた。 「君の夢を、ワタシも・・・、見ててあげるから。」 少しだけ言葉につまっているのがわかった。 しばらくの静寂・・・。 長く息がつまりそうで、 このままじゃいけなくて、 ずっとこのままでいたくて・・・ どれくらいたったかわからなくなった頃、部屋にノックの音が響いた。 「コラー、面会終了じか・・・。」 口の悪い看護師が、言葉を止め、フンと鼻息をならして出ていった。 口は悪いけど、性格は悪くないようだ。 「そろそろ、行くわ・・・。」 「ハンカチいる?」 「いりません。」 そういうと二人は顔を見合わせて笑った。 「じゃ、また・・・。」 「あ、まってぇ。」 珍しく彼女が引き留めた。 「指切りげんまんー。」 「・・・言ってて恥ずかしくない?」 「うるさいなー、んー、嫌ならいいんだよー。」 「わかったわかった、んで、何を約束するんだ?」 そういうとどうやら機嫌を直したようで、 「完全試合と、甲子園!!」 「球児の夢を約束って・・・。」 そういいながらも小指を絡め、 あの台詞、 「「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます。」」 少し、恥ずかしいけど、 守らなきゃな。 「へへん、じゃあ、ちゃんと約束守れたか見守らなくちゃね!!」 彼女のその言葉に、 希望を持たない訳にはいかなかった。
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