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「夏なんてなくなればいいのに!」
私は毎年みえない敵と戦っている。
そろそろ奴らがやって来る季節だ。
奴らは、特に蒸し暑い暗闇を好む。
寝苦しい夜、電気を消すと必ず訪れる。
最近の奴らは、年々賢くなっているように思う。
人間の攻撃を上手くかわしている。
私が、眠りにつくかつかない頃、
どこからともなく耳もとで囁き始める。
「うぅいぃーん…」
その微かな音は、細く高音で、
でも確実に私の耳に届き不快にさせる。
明日早いんだから、今のは聞かなかったことにしよう。
「うぅいぃーん…」
ああ、うるさいな。
「うぅいぃーん…」
もおっ、いいかげんにして!
私は、この不快な音に耐えられなくなり、
とうとう電気をつけた。
ベットから降りて、布団をはがし、
これでもか!というぐらい殺虫剤をまいた。
しかし、誰もいない。
あれっ、おかしいな。
奴らは何処へ消えたんだ。
暫く様子を見ていたが、
戻って来る気配がないので、
私は再び布団を整えてベットに入った。
そして、電気を消した。
すっかり目が冴えてしまったので、
しかたなく心の中で羊を数え始めた。
奴らが再び出ませんようにと祈りを込めて…
やがて羊はどんどん遠くなり、
頭の中もぼんやりしたころ、
私は今まさに眠りにおちようとしていた。
よし、いい調子だ。
奴らの事は忘れてこのまま眠ってしまおう。
「うぅいぃーん…」
今の空耳?
「うぅいぃーん…」
うそぉ、いい加減勘弁しておくれよ。
「うぅいぃーん…」
ここだ!多分奴らはここにいる。
そおっと、息を殺して。
それ、いまだー。
「ぱちん!」
私は、自分の右の太ももを思いっきり叩いた。
暗闇の中だが、確かに仕留めた感触がある。
鼻を近付けると、微かに血の臭いがする。
間違いない。
私は、自信を持って明かりをつけた。
私の右手には、たっぷりと血を吸った
しましまの吸血鬼が潰れていた。
しかし奴らは、まだ暗闇の中に確実にいる。
今夜は、私が1勝ということで。
これから、長い長い決戦が始まるのだ。
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