祭りの夜に

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 そして、あたしにも旅立ちの日が訪れた。  その日は強い日差しが水面をきらきらと輝かせていた。  いつものように人間が現れ、食べ物を撒く。あたしが真ん中を横切り、兄弟たちが浮かび上がって来た。  突然、異変が起こった。空が暗く陰る。見上げると巨大な円とその中で縦横に交差するたくさんの綱が見えた。円と綱はあたしたちの上に落下し、あたしは水中深く沈められる。次の瞬間、あたしの体は空中に引き揚げられていた。上下左右にぴちぴちと跳ねる兄弟姉妹の姿が見えた。水を求めて懸命にあがく。気が遠くなりかけた時、衝撃と共にあたしたちは水中に戻っていた。  あたりを見回す。あたしたちがいるのは小さな池だった。だけど、とても小さい。平らな壁で囲まれ、四方の壁がすぐそこに見えるほど。  そして、体に不快な揺れが伝わる。水が、いいえ池全体が細かく振動している。同時に水面の上の景色が同じ方向に動き始めた。池がまるごと動いているみたい。動く池なんてツバクロの話でも聞いたことがなかった。あたりを見回すと、兄弟姉妹たちも茫然としていた。何か起こっているのかわからず、きょろきょろとあたりを見回している。  やがて、水の不快な振動が止まった。外の景色も動きを止める。そしてあたしたちを、再び巨大な円と交差する綱が襲った。次に水中に戻った時、あたしたちはさらに小さな池の中にいた。小さいだけでなくとても浅い。体二つ分か三つ分くらいしか無い。  見上げると左右を切り取られた空が見えた。お日様は既に勢いを失い、空は濃紺に染まり始めている。空の両側には平らな屋根がたくさん並び、屋根の先には透明な玉がぶら下がっていた。  暫くすると池のそばに人間が立ち、周りの人間を呼び集め始めた。人間が繰り返してしゃべっている『金魚すくい』と言うのが、この池の名前らしかった。
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