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コウジの喉から、ごぼっと異音がもれた。
吐いたのだ。俺の手についていたみぃくんの体液にまみれた顔が、涙と苦悶にゆがむ。耳が痛いくらいの静寂がキャンプ場に満ちている。だが、コウジはこらえきれずに嘔吐し続ける。
俺はバッと、身を翻した。
──悪い、コウジ!
こころのなかで謝って、破れ目に飛びこもうと、物陰を飛びだす。そうして、一目散に逃げる、
はずだったのだ。
俺は、ぼうぜんと、視界をさえぎった作業着の腹を見た。悲鳴をあげることもできなくなって、腰をぬかした。
じゃんけんおじさんは、満面の笑みを浮かべ、ゆらゆらっと頭をゆらす。
「ザンネンでしたァ!」
俺の頭上で、甲高い声とともに振りかぶられた大鎌の先が、木漏れ日に光っていた。
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