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今日はハズレだ。
ちくわ型のスナック菓子をほおばりながら、俺はじゃんけんおじさんに悪態をついた。納豆味ってなんだよ、せめてたこやきとか!
将棋盤を挟んだむかいで、俺の愚痴を聞いていたコウジが呆れたように肩をすくめた。
「おまえがじゃんけんおじさんの常連客になるなんて、思ってもみなかったよ」
「かんたんに言うけどさ、常連になるのも、結構むずかしいんだぜ?」
じゃんけんおじさんは朝の登校時に現れることもあるし、下校時に狙われることもある。目の前で他のだれかが先にじゃんけんに勝ってしまうことだってある。空の袋を手にスキップしているおじさんを見送ったときのむなしさったらない。
「俺の菓子、今日はだれが食ったんだよ! ってなるよ」
「おまえの菓子じゃないし」
声をたてて笑いながら、コウジは駒を進め、俺の歩を取った。
「しあさってさ、ウチに来ないか? 親父が、次の日曜日なら、将棋教えてくれるって」
「え、マジで? 行く行く! コウジんちってどのへん?」
「ふだんの分かれ道を少し行って、もう一回、磯のほうに曲がったところ。キャンプ場に行く道って言ったらわかる?」
なんとなくしかわからない。当日は、道がわからなかったら電話することにしよう、などと話していると、柳井先生が部室に顔を出した。
「──コラ! 菓子は校則違反だぞ」
めざとくスナック菓子の袋を見つけた柳井先生に、コウジがちゃっかり俺のほうを指さす。おかげで、俺はごく軽くげんこつを食らい、くちびるをとがらせた。
「しかし、懐かしいな。こんな駄菓子、どこで買うんだ?」
「懐かしいって、先生もこれ食べたことあるんスか?」
「子どものころ、よく食ったよ。いまも一本十円なのか?」
「さあ……」
俺が首をかしげると、柳井先生はどういうことだと、眉を寄せた。コウジが脇から説明してくれる。
「じゃんけんおじさんにもらったんだって」
「じゃんけんに勝つと、菓子くれるんスよ」
言い添えると、先生はへえっと、顔を明るくした。
「俺の子どものころにもいたひとだな、そのおじさん。駄菓子屋によくいて、じゃんけんに勝つと何でも買ってもらえたんだ」
「先生の子どものころっていつ? 五十年くらい前?」
「ひどいな。老け顔だけど、まだ三十六だ」
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