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翌日、金曜日の下校時、いつもの道でみぃくんを撫でていると、耳慣れた足音が聞こえてきた。
たたん、ととん、たたん、ととん。
みぃくんの耳がぴくりと動いて、音に集中する。だが、俺はめんどうくさがって、しゃがんだままでいた。寝そべっていたみぃくんが首をもたげる。目を細め、じっと前をみる。
おじさんの足音が近づいてくる。そろそろ、みぃくんも逃げていってしまうだろう。それまではと、のんびりしていると、俺の手元にいたみぃくんがとつぜん思わぬ行動に出た。
じゃんけんおじさんのスキップする足元に、自分から飛びこんでいったのだ。
「みぃくん、あぶない……っ!」
俺はとっさに手をさしのべ、みぃくんをかばおうとした。だが、そこはやはり猫だけあって、蹴られる寸前でおじさんの足のあいだをすり抜け、みぃくんはむこうへ走っていく。
ほっとしたのも、つかのまだった。
「じゃーんけーん、」
ハッとしたときには、遅かった。
「ぽんっ」
後出しに間に合わず、適当にグーを出す。
じゃんけんおじさんの手は、パーだった。
負けた。血の気がひいた。
ニィィっと、おじさんの顔が笑みにひきつっていく。ゆらゆらっと首がゆれた。両腕が左右に広げられる。
それを見て、俺はスタートを切っていた。家にむかう道を、全速力で走りだす。
「待ってえ! 待ってえ!」
たたっ、ととっ、たたっ、ととっ。
いつもよりも早いスピードで、でも、こんなときにも、じゃんけんおじさんはスキップをやめない。笑顔をはりつけたまま、追いかけてくる。
「待ってえ!」
声が遠ざかった。俺はちらりとうしろを見遣る。やはり、スキップと必死で走るのとでは、速度に違いがある。どんどんと差が開いていく。角をいくつか曲がり、遠回りして、おじさんから俺の姿が見えないうちに、急いで家に飛びこむ。
なんとか逃げ切れた……。
玄関の鍵をしめたとたん、どっと汗が出て、俺はドアに寄りかかり、ずるずるとその場に腰をおろした。
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