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自転車が俺たちを追ってやってくる音が聞こえた。俺とじゃんけんおじさんのあいだに割りこみ、橋と俺とを背にして、ブレーキ音とともに自転車を止めたのは、コウジだった。
コウジは自転車を飛び降りざま、怒鳴った。
「おじさん、オレとじゃんけんしよう!」
勝負を呼びかけながらも、コウジはさりげなく立ち位置を変え、俺がおじさんの死角に入るように誘導してくれる。
おまえはどこの正義の味方だよ! ありがたいっ、助かった!
俺はじりじりと後ずさりし、一本裏の道へ逃げこんだ、と見せかけて、川辺へと下りた。身をかがめて、そっと橋の下へ隠れる。
川のせせらぎが近いせいで、コウジたちの勝負の結果は聞こえなかった。じゃんけんおじさんの足音もわからない。
コウジは無事だろうか。不安で胸がいっぱいになりながら、俺はその場を動けずにいた。
──何分くらい経っただろう。
腕も足も蚊に食われ、かゆみを我慢していると、橋を渡った先キャンプ場のすぐ脇に動くものが見えた。
コウジだ。無事だったのか! 自転車の前カゴには、戦利品とおぼしきミルクチョコレートの箱が見える。コウジは有刺鉄線のなかをのぞきこんだり、きょろきょろしたりと、何かを探しているようすだ。……ひょっとして、俺を探してる?
「コウジ!」
呼びかける。聞こえないらしい。俺は靴が濡れるのも気にせず、ざぶざぶと小川を渡り、土手を這い上がった。
「おい、コウジ、こっち!」
やっと聞こえたのか、コウジは俺を見て、安心したようだった。
「よかった。なかなかウチに来ないから、じゃんけんおじさんに捕まっちゃったのかと思ったよ」
「悪い。隠れてたから状況がわかんなくて」
言い訳しながら、ふたりで橋を渡って、コウジの家にむかおうと歩きだした、まさにそのタイミングだった。
たたん。ととん。
どこからか聞こえた音に、俺は足を止めた。コウジも、いぶかしげな顔になる。
たたん、ととん、たたっ、ととっ
近づいてくる。足音が大きくなる。
俺はきびすを返した。キャンプ場のほうへ戻る。コウジも自転車を橋のうえにとめて、こっちへ来た。
「どうするんだよ」
「隠れるに決まってんだろが!」
ささやき返し、有刺鉄線の破れ目を見つけて、場内へ滑りこむ。コウジは迷ったようだったが、俺に続いて中へ入った。
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