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柳井先生はニヤリとして、おどかすような口調になった。
「知ってる知ってる、あれだろう? おじさんとのじゃんけんに勝つと、スキップしていなくなるけど、負けると大鎌で殺されちゃうって話。な、コウジ?」
コウジは応えてニヤニヤした。でも、否定も肯定もない。
「それ、俺の知ってるおじさんと違うし。なんスか、先生まで俺をおちょくるとか、酷くないスか? おい、コウジ。ホントは負けたらどうなるワケ?」
「さあ、どうなるんでしょー?」
はぐらかし、コウジが桂馬をぽんと俺の王将の隣に置いた。そうして、くるりと裏返す。成金か……っ。
駒が敵陣に入ったあとに、裏返して『成る』ことで、金将という強い駒と同じように動けるようになるのだ。そのルールをうっかり忘れていた。
「王手。おまえ、大駒ばっかり気にしすぎ」
「くそぅ。ありがとうございました!」
おざなりな礼をして、もう一局指そうとすると、柳井先生が名乗りをあげた。それなら、三人で総当たりだ。まずはコウジと先生、次が俺と先生。順番を決めていると、先生は駒を並べながら言った。
「そうそう、本題を忘れるところだった。磯のキャンプ場あるだろ? あの近くで、さいきん小動物の死骸がたくさん見つかってるらしい。おまえたち、危ないから近寄るなよ」
「知ってる! 首ちょんぱされてたって、親父が言ってた」
コウジの親父さんは、地元消防団の見回りの最中に野良猫の死骸を見つけたのだと言う。
「ウチでも、みぃくんが変なヤツに捕まらないといいなって話してたんだよ」
「猫ならわかりますけど、俺たちはキャンプ場なんか行かないッすよ。第一、あそこ、有刺鉄線だらけじゃないですか」
先生の言う場所は、廃キャンプ場と言うのが正しい。大昔、この町が栄えていたころには賑わっていたらしいけど、いまでは崩れかけのバンガローや四阿があるばかりで、完全に廃墟になっている。建物の倒壊が危険だからと、有刺鉄線で立ち入りを禁じているのだ。
「もちろん、中に入るのはもってのほかだぞ。そうじゃなくって、周囲に不審者がいるかもしれないんだ。けっして近づかないこと」
「不審者ァ? じゃんけんおじさんとか?」
混ぜっかえすと、柳井先生は手元の駒から視線を上げ、困ったように目を細めた。
「じゃんけんおじさんはいいから。キャンプ場のことはな、警察から連絡が来ているんだ。くれぐれも近寄らないように」
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