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本当は百々とて危険はあったのだが、ここでそんなことを口にしてしまっては、やぶへびだ。
だから、一子は丈晴に対し、百々ならば大丈夫なのだと言うしかなかった。
苦情らしい苦情を申し立てることもできず、丈晴が悔しそうに一子の部屋を辞した後、一子は庭に出た。
深夜だが、自分の敷地内である。
しかも、向かう先は、庭の片隅に己が建てさせた社。
その前で、一子は深くお辞儀をした。
「百々ちゃんをお助けくださいまして、ありがとうございました。」
一子の言葉に、社の中からすうっと何かが抜け出してくる気配があり、それが瞬く間に香佑焔の姿になった。
金糸の模様で飾られた美しい純白の袍も、本来なら新雪のように真っ白な尾も、ところどころが黒く染まっていた。
全体からすればわずかな面積と言えど、それは穢れなのだ。
一度堕ちて一子に救われて神使に戻った香佑焔には、どれほど辛かろう。
一子は、血管が浮き出た細く老いた手を、香佑焔の胸に置いた。
目を閉じて、聞き取れないほどの小声で呟く。
香佑焔がかすかに呻き、染みのような黒はみるみるうちに色を薄くして消えていった。
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