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白くなった衣を一撫でし、香佑焔は静かに微笑んでいる一子と視線を合わせた。
「危険なことだった。」
「承知しております。」
まだ圧倒的に経験の足りない、しかも本格的な修行をしていない百々が、引き受けるような事案ではなかった。
そう香佑焔は言っているのだ。
もし香佑焔の加護がなければ。
心の支えもなく、史生から吐き出される黒い荒魂の欠片をいくつも食らっていたら。
百々は折れていたかもしれなかったのだ。
しかも、相手は伊邪那美命、数多くの神々を産み出し、この中津国の創成にも立ち会った女神である。
「まさか、成し遂げられるとは思わなかった。」
「あら、そうですか?」
「あれはまだ未熟の一言に尽きる。おまえが到着するまで持ちこたえればよいと、そう思っていた。」
しかも、唱えた祓詞で伊邪那岐命の名を出したあたり、香佑焔からしてみれば、無謀で恐れ知らずなことだった。
しかし、一子はそうは考えていなかったらしい。
一度目を閉じ、それから薄く、開いたか開かないかの目蓋の隙間から、ひたりと、香佑焔を見据えた。
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